男鹿方面に出る

友よ、君は何を探している?
久しく異国に暮らして帰ってきた君は
遠く故郷を離れた異国の空の下で
故郷の夢を育んできた君は

ジョージ・セフェリス

 洞窟を抜けると冬を超え、暖かい季節に入っていた。この日、冬の肌寒さと春の嵐を同時に迎える奇妙な
一日となった。秋田駅から車で一時間、日本海に突き出たこの半島は悪い子はいねがで有名な殺人鬼の住む土地だ。その手に常に握られた包丁は、きっと刺さないまでも振りかぶられたら怖いと思う。しかしこの殺人鬼、見つける毎に苦笑してしまうのが可笑しなところだ。

 半島に来たら先っちょへ向かえという冒険家魂を漲らせ、先っちょの入道岬に向かう。先っちょで食べれると言う料理、石焼を食べる為だ。大型連休直後の影響か、前日の天気予報のせいなのか人や車があまり見当たらない。とてもすごしやすい。途中、寄り道をして万体仏堂方面に来る。この堂は一見普通の神社だが、堂内を良く見ると無数の手彫り仏像が壁一面に埋め尽くされている。好きだ。異様な天候の雰囲気も手伝って、写真を撮るのが罰当たり風だったので撮らない事にした。この先には、真山伝承館があり、世界でもベスト100に入りそうな丸が落っこちていた。

万体仏堂
万体仏堂
鬼ポ
鬼ポ
真山伝承館
真山伝承館

 再び先っちょに向かい、目当ての飯屋を見つけた。これまであまり人を見かけなかったが、この店には車が数台停まっており賑わっていた。石焼というのは、焼いた石を桶の中に突っ込んでその熱で一瞬で鍋を作ると言う荒々しい料理だ。しかし、この料理、とても上品な味で美味しいのだ。頭までぶつ切りにされた魚介類は、トロトロに煮込まれている。つけ合わせの塩辛、若布も妙にうまい。料理人と日本海の幸に感謝した。しかもこの店、店の人が優しくてお萩とか出してくれた。餅米が美味しい。昨日食べた本物のきりたんぽといい、美味しいものばかり食べている気がする。

 店のすぐ前は先っちょの入道崎だ。強風で身体が浮きそうになる。崖からは、大荒れの日本海、一歩間違えたら落下しそうな雰囲気で楽しい。思えば日本海を見たのは初めてな気がする。砂浜よりもゴツゴツの岩海が好きなのだ。暫くしてとても綺麗な戸賀の温泉宿を見つける。水族館のすぐ近く、日帰り温泉に入ったが、やはり人はいないので温泉独り占めになった。写真もとってしまった。この付近の宿は夕焼けがさぞ綺麗だろう。今日は帰宅日なので無理だが、いつか泊ってみたいと思う。宿からとても綺麗な湯袋を頂いた、久保田の碧寿と共にヒヒの歯に届けよう。それにしても、石焼の店といい、この宿といい、この土地の人はとても親切でやさしい。子供の頃から殺人鬼の脅威にさらされているから優しく育つのだろうか?観光客、もっと来たらいいのに、と思った。

入道崎(1)
入道崎(1)
入道崎(2)
入道崎(2)
入道崎(3)
入道崎(3)
入道崎(4)
入道崎(4)
  石焼(1)
石焼(1)
  石焼(2)
石焼(2)

 半島を半周する前、やはりゴツゴツ岩に魅せられて門前付近に借りたモンスタートラックを停める。ゴツゴツ岩をぴょこぴょこと飛び移り、景色を見るのはとても楽しい。ゴツゴツは自然で、自然を作るのは難しい。一級の芸術品の上で戯れるのだ。一つのアイデアは千の蝋燭に火をともす。みんな故郷に帰りたくなっただろう、みんな故郷に帰りたくなっただろう。

風呂
風呂
岩(1)
岩(1)
岩(2)
岩(2)
お土産
お土産
  電信柱
電信柱
  丸

 鷹巣から秋田に向かう寝台列車の中で(普通に9時台の電車がデフォルトで寝台列車だっただけだが)指定席に向かうと一人の男が自分の席に座っていた。自分の席はB、Bは2段ベッドの上だ、男はCという。しかし、Aが2段ベッドの下、Bが上だ。席板にはABCの記載はない。程なくしてCの男は立ち去っていった。奥の席からは、日本の地方における病院制度の問題点について延々と語っていた。その口調から、酒を帯びているのは明らかだ。仮にその男の主張をCとしよう。その場合、日本の地方はA、2段ベッドの上が病院だ。しかしながら、結局のところ席板にはABCの記載はない。電車が停まり、扉が開いた時、故郷と思しき席板のない世界が見えてきた。(つづく)


参考文献:
潮騒浪漫・男鹿半島 Akita Oga Guide
スティーブン・キング 「IT」